UXデザイン解体新書

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本コラムを読まれている皆様の業務において「UX」なる言葉が登場する頻度が増えたと感じる事もあるのではと思います。既に「UX」というワードがビジネス用語の一つとして流行ったというレベルではなく、製品やサービスを企画する際に重要度が高いものという認識が定着したのかも知れません。一方で言葉としての広まりの割にその意義やUXデザインの取り組み内容自体は漠として端的に言い表す事が出来ないという方も多いのではないでしょうか。

本稿ではあらためて「UX(User Experience)」というワードから「User:利用者」の「Experience:経験」をデザインするという事を、どのように押さえておくべきかお伝えできればと思います。

User:相手のことはよく知らない

あらためて「User/ユーザー」というのは一体何処の誰を指した言葉なのでしょうか?既にサービスや製品に対価を支払い利用されている方の事でしょうか。それとも潜在的な未来の顧客でしょうか。勿論、どちらでも間違いではありませんが、少々乱暴に言ってしまえば、あなた(と企業)がビジネスを行う上での「ユーザー」とはあなた自身ではない人の事を指しているのでしょう。そして「顧客中心で考えましょう」と言った時には、「顧客の立場に成り代わって考えましょう」という意味合いで捉えられる事が多いと思います。

ところが、いざそれを実践しようとした時、ユーザーに自身が成り代わって考えるはずが、いつの間にか自分というユーザーが思っている事、考えている事をただ述べるだけになってしまっている事はないでしょうか(自身でそれに気付く事が出来ればまだ良いのですが、実はそれに気付く事さえ難しい!)。勿論、自分自身がそのサービス、製品の1ユーザーの場合もあるでしょうから、あながち間違っていない面もあるのですが、一度提供者側になって専門性、知識を身につけてしまった方が未利用者と同様のレベルにまで専門性、知識を取り除く事は現実的にはもう不可能な状態になっているものです。それを受け容れずにユーザーの事を知っていると軽々にいうのは多分に提供する側の思い込みだと言われても仕方がないでしょう。

少し厳しい物言いになってしまいましたが、こうなってくると果たして自分は自身が成り代わるべきユーザー、相手の事をどれくらい知っているのだと言い切れるのでしょうか。

あなたは良き理解者になれるか

少し例え話をしてみましょう。

あなたが自身の身近な存在である両親、パートナー、お子様に何か贈り物をする時に、何を贈ろうと考えるでしょうか。あなたが思い浮かべた相手が普段どのような生活を送り、何を好んでいるのか、その理由をあなたがよく知っていれば、誕生日なら誕生日に、記念日なら記念日というタイミングに適した贈り物を選ぶ可能性はかなり高いのではないでしょうか。そしてその時には「世の中で流行っているから」とか「価格的にお手頃だった」のような相手不在の選択基準はあなたの判断には登場せず、「普段どのような事に喜びを感じる人なのか?」や「実現したい未来に対して今何が必要なのか?」といった事を真剣に思案し、持ち得る情報を総動員しているあなたが居るはずです。

ここで翻ってみれば、ビジネスにおけるユーザーについて、あなたがあれこれと思案できる程に高い解像度で知っているか、豊かな生活を送れるよう、喜びをもたらそうとあなた自身が行動できるのか、というような自問をしてみるのも決して無駄では無いように思えます。

とはいえ普段の生活で多くの時間を共に過ごすような相手ならばともかく、ユーザーと日常的な接触などは現実的にあり得ないですし、更にまだ見ぬ潜在的顧客をターゲットとしたいのであればその存在自体非常に曖昧なものであり、その実態を即答することは困難であるといえるでしょう。

それではまだよく知らないユーザーの事をより良く知る為にはどうするのかというと、様々なフレームワークを活用しユーザーの解像度を高めていく事、いわゆるリサーチの実施が必要になってきます。

具体的には、

  • サービス、製品の利用ログ取得やWebアンケートの実施から定量的な情報を得る
  • インタビューや利用実態調査などから定性的な情報を得る

というような手段を採用する事が多くなるのですが、これらもリサーチの枠組みに過ぎず、個々に得られる情報は単に一側面からユーザーの過去を捉えたものでしかありません。その為、実際には得られた情報をベースとしてターゲットとなり得る立体的なペルソナ(ユーザー像)を生み出していく事になります。ペルソナはこのような裏付けを持ちながらサービス、製品開発でプロジェクトに関与するいずれのメンバーにとってもその価値観やおかれている状況への理解を深める対象として形成される事が大切になってくるのです。

Experience:点なのか線なのか

サービス、製品を成功させる為には贈り物の例の様に、ただ一人を対象とした話とは次元が異なる事は自明なはずなのですが、今度は逆にペルソナを作り込みすぎた故にユーザーに対して一方的なレッテルが貼られ、プロジェクトメンバーに局所的な視点しかもたらす事が出来ず、新しい気付きも得られないままプロジェクトが進んでしまう事態が往々にして見受けられます。

UXという言葉については「Aが無いからAが欲しい」「Bがうまく動かないから動くようにする」というような直近の課題や局所的なネガティブを解消する事がUXを検討する事であると誤解されがちなのですが、それは個々の課題を対処療法的に処置している状態であって直接UXをデザインする事を指しているとは言い難いものなのです。勿論、個々の課題解決もUXを構成する大切な要素ではあるのですが、過去からの経験を時間軸として持つユーザーを大局的に観た時、それらの課題もほんの一瞬の出来事、いわば点でしかないという事実なのです。

UXとして検討しなければならない本質とは、対象となるユーザーのもう変わる事のない過去から課題に直面する現状に何故辿り着いてしまったのかを深く理解し、製品、サービスを開発する側として、その現状からどのような未来へと進んで行って欲しいのかを考える事で、ユーザーのこれからの道筋を計画する事こそがUXデザインと言われているのです。

この未来への道筋を描きプロジェクトを成功させる為にメンバー内でユーザー像を共有する事が必要で、ユーザーのAs-Is(現状)とTo-BE(あるべき姿)を言語化、可視化し、そのあるべき姿に向けユーザーをエンハンスさせるものを開発し提供する事がデザインと言えるのです。

経験をDesignするということ

UXデザインとはタッチポイント(UI:User Interface)を頑張って設計する事を指すのではなく、過去から繋がり現状へ至ったユーザーへの理解が十分に為された上、どのような未来にユーザーを導いていくかを設計(Design)していく事にあたります。いくら個々の機能に優れたUIを作り出す事が出来ても、それだけで良いUXを提供する事にはなり得ないという現実があり、良い未来へと進んでいく流れ(UX:User Experience)をどのような形で提供しようかと考えた時にこそ優れたUIが必要になってくるのです。

もちろん、ビジネスの成功の為に既存技術による強みを発揮するのは有効な手段と言えるでしょう。ただしその強みを最大限活用するにはユーザーを深く理解した上で提供したい未来を描き、そこへ導く為、強みをどのように活かすかを検討する事が他社との差別化を生み、またそれこそが個々の企業に求められる時代となっているのではないでしょうか。

長田和之

執筆者 長田和之

UI/UXデザイン、アートディレクションを担当しています。

NRIネットコム Webデザイン事業部
アートディレクター 人間中心設計専門家

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