─第3の選択肢PWA ─ 企業のモバイル戦略の新潮流

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PWA(Progressive Web Apps)と呼ばれる技術を使った、モバイル向けのWebアプリが増えてきている。PWAは、Webサイトとモバイルアプリの両方の特徴とメリットを兼ね備えている。本稿では、PWAの機能や技術について解説し、なぜ今PWAが注目されているのか、その背景となるBtoC向けモバイルアプリの潮流についても紹介する。


クラウド事業推進部長 佐々木 拓郎

モバイルアプリの現状とPWA

モバイルファーストという言葉が登場して久しい。モバイルファーストとは、サイトやサービスを提供する際に、PC版よりもモバイル版を優先して提供することである。

背景には、PCとスマートフォンの利用時間の比率が逆転している事実がある。総務省が実施した「平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」によると、13歳から69歳のスマートフォン利用率は約8割を超え、機器別のインターネット平均利用時間でも6割超とトップであり、企業にとってスマートフォン対応は必須である。

スマートフォン対応といっても、いくつかの対応方法がある。主なものは次の2つである。1つはiTunes StoreやGoogle Playといったアプリストア経由で、モバイルアプリを提供する方法、もう1つは、スマートフォンのブラウザーでも見やすい形でWebサイトを提供する方法である。

ユーザーのスマートフォンの利用形態をみると、利用時間の8割以上はモバイルアプリの利用で、ブラウザーの閲覧時間は短い。企業としてはモバイルアプリを検討したくなるところだが、そう単純ではない。

ユーザーが月に1回以上利用するモバイルアプリは、30個程度で固定化している。一方でまた、モバイルアプリの新規ユーザーの獲得コストも増加している。単にモバイルアプリを出すだけでは効果は薄い。広告費を含めた開発運用コストが企業に重くのしかかってくる。

開発コストがかさむ要因として、スマートフォンのOSが複数あることが挙げられる。iOSとAndroidとで個別に開発しなければならず、必要なスキルセットも異なるため、OSごとに開発要員を確保しなくてはならない。どちらのOSもほぼ1年周期でメジャーバージョンアップを行っており、かつ端末自体も毎年のように新機種が発売されているため、モバイルアプリ側でも大なり小なり対応が必要になってくる。またOSのカバーする機能が広範囲化・高度化しており、モバイルアプリ側もそれに追随する必要がある。そのコストが年々上昇している。

またアプリ特有の問題として、アプリストアのレビューについてのリスクがある。アプリストアには、モバイルアプリの説明文と共にユーザーによるレビューが掲載される。悪い評価があれば、企業やブランド自体にもネガティブなイメージを持たれる可能性があり、モバイルアプリを出すことが、企業ブランド毀損のリスクに直結する可能性がある。

つまり、開発コストとレビュー対応の負担が重く、モバイルアプリから直接的な収益を得られない企業では、モバイルアプリを出すことに消極的になってきている。こうした流れのなかで注目されているのが、PWAである。

PWAの特徴

PWAはProgressive Web Appsの略で、ストアからダウンロードして利用する一般的なモバイルアプリ(以下、ネイティブアプリ)と、ブラウザーを使って利用するWebアプリの特長を兼ね備えており、Google ChromeやSafariなどのブラウザー上で動作するものである。

モバイル端末の場合、ホーム画面にショートカットを配置することで、あたかもネイティブアプリのように利用できる。ネイティブアプリと同様に、プッシュ通知の受け取り、バックグラウンド同期、オフラインでの動作といったことも可能である。動作もネイティブアプリと遜色ないUI/UX(UserInterface/User eXperience)が実現可能である。

PWAの実体は、Webサイトを記述するHTMLやWeb上でプログラムを実行するJavaScript、そしてWebサイトのデザインを指定するCSSによって構成されている。技術的な特徴としては、ブラウザーから直接Webサイトにアクセスするのではなく、ブラウザーに常駐するスクリプトを経由する点にある。このスクリプトはService Workerと呼ばれ、Web サイトとの通信やキャッシュのコントロールを行う。オフラインでの動作もこれにより可能となる。

PWAを提供する際の構成は、一般的なWebサイトを提供する場合と同じである。また、PWAはモバイル専用というわけではない。PWA対応のブラウザーであればPC版でも問題なく動く。さらにレスポンシブWebデザイン(画面サイズに応じて自動的にレイアウトを調整するデザイン)で作成しておけば、同一のHTMLソース、つまり1つのWebサイトで、PCとモバイル両方に提供もできる。うまく活用すると、モバイル対応のコストを下げることが可能である。

またPWAはWeb サイト上のファイルなので、Googleなどからキーワード検索での閲覧が期待できる。Webサイト閲覧後に端末のホーム画面に登録されるようなUIを用意しておけば、キーワード検索からホーム画面への登録、リピート利用までの流れがシームレスに実現できる。

なお、IonicなどJavaScriptのフレームワークを使うことで、Webアプリとして作ったものを、ネイティブアプリとして変換することも可能である。この場合、iOSやAndroidの知識もほぼ不要である。

このように、メリットが多いPWAであるが、幾つかの課題はある。最も大きなものは、一部のブラウザーで利用できないことだ。PWAの提唱者はGoogleである。そのためAndroid端末での標準ブラウザーであるChromeの対応は早く、利用は比較的問題ない。一方でiOSの標準ブラウザーであるSafariは、iOS11.1以降のものでないと利用できないだけでなく、PWAの全ての機能に対して部分的にしかサポートしていない。

PWAの事例と効果

世界最大級のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)であるFacebookやTwitterは、それぞれFacebook Lite やTwitter Lite という名前でPWAを提供している。PWA版では機能を絞っている分、アプリサイズは小さく、低スペックの端末でも利用できるものになっている。先読みなどのリッチな機能を抑えることで通信量を少なくし、低速な2G回線(28.8Kbps)でも十分使えるものとなっている。

Facebook社やTwitter社がPWAを出す目的として、新興国対策がある。欧米などの先進国では、ユーザー数の増加はそろそろ頭打ちとなり、利用者の大幅な増加は望めない。そこで、これからインターネットの利用者が増える新興国が重要になるが、新興国ではまだネットワークインフラの整備が十分でなく、接続速度が遅く、通信が不安定な地域が多い。端末も、低スペックで比較的安価な端末が好まれる。そうした国々では、軽量なPWAが好まれ、シェア獲得につながっている。

日本国内でもPWA対応の事例が増えてきている。日本経済新聞社の「日経電子版」や、リクルート住まいカンパニーの「SUUMO」などが代表例である。ここでのPWA化の目的は、ネイティブアプリの代替えというよりも、既存のWeb サイトの高速化である。

日経電子版やSUUMOの場合、米国Google社の発表によると、従来のWebサイトに対して、読み込み時間が75%削減された(https://developers.google.com/web/showcase/2018/nikkei)。また、日経電子版では、検索からのWebサイト利用が2.3倍になり、日々の利用者が49%増・サイト会員が58%増と、ビジネス上のインパクトも大きい。

PWAで開発する際の留意事項

NRIネットコムでも、ネイティブアプリの機能をPWAで再構築することや、既存WebサイトのPWA化に取り組んでいる。開発・検証した実感としては、既存アプリやWebサイトの作り方に影響を受けるものの、PWA 化対応そのものの対応コストは概して小さい。

一方で、PWAのメリットを生かすには、キャッシュ設計が重要であり、ノウハウの蓄積が必要である。また、ブラウザーによって動きが異なる部分もあり、PWAが未成熟な部分も垣間見られる。

PWAのメリットとして実感できたのが、iOSとAndroidの個別対応が、原則不要になることだ。PWAの場合は、ブラウザーごとの挙動の違いをカバーしておけば、それぞれの開発は不要である。ネイティブアプリに変換すれば、1つのソースでPWAとネイティブアプリ対応も可能になる。PWAをうまく活用すると、開発コスト削減の効果は大きい。

企業のモバイル戦略の今後

PWAは、ネイティブアプリを代替えするものなのか、併存するものなのか、企業のモバイル戦略について検討したい。まず押さえておく必要があるのは、ネイティブアプリとWeb サイトの目的の違いである。

モバイル・PCなどすべてのインターネットユーザーを包含するWebサイトの方が、利用者が多く裾野も広い。これに対して、ネイティブアプリは目的別に作るものであり、対象とするユーザーも絞り込んだものとなる。

次にユーザー属性の違いについて述べたい。ネイティブアプリの利用者は、能動的にアプリを探してインストールしている。また、継続的に利用しているユーザーは、アプリが提供するサービスに一定の理解があり、気に入っている利用者であるため、顧客のロイヤリティが高い傾向にある。

対してWebサイトの利用者は、ネイティブアプリと比較すると、使い方が受動的な傾向にある。サービスが目的ではなく、検索結果から利用しているにすぎないことが多い。サイトが提供しているサービスに対しての認知は低く、ネイティブアプリに比べて顧客のロイヤリティは低い利用者が多い。

これらを踏まえてそれぞれの位置づけを整理すると、Webサイトは顧客拡大の窓口であり、幅広くリーチするためのものである。一方でネイティブアプリは、ロイヤルカスタマー向けであり、サービスの価値向上や実際の収益を生み出す場となる。PWAはWebサイトとネイティブアプリの中間に位置するので、企業のモバイル対応の状態に応じて使い分けることができる。

また戦略を立てる前に、自社サービスの状況をデータで把握することが第一である。Google AnalyticsのようなWeb解析ツールを適切に使うと、Webサイトのみならず、ネイティブアプリも含めた行動解析が可能となる。分析すべき項目の一例としては、ユーザーがPC・モバイルのどちらから利用しているのか、両方であれば利用傾向の違いは何か、どちらが利益に結びついているかなどがある。

その上で、ネイティブアプリがすでにありうまくいっているケースでは、PWAの投入で、ユーザー層・収益がさらに拡大できるのか分析し、効果がありそうであれば積極的に導入するのが良い。逆にうまくいっていないケースでは、ネイティブアプリの収益モデル・ブランド向上施策がうまくいっていないか、そのアプリがユーザーのニーズに合っていないということである。

その場合、いったんネイティブアプリから撤退し、ユーザーニーズを分析し直した上で、PWAでやり直すことも選択肢になる。Webサイトのみでネイティブアプリがない場合も、まずはPWAから始めるのが良いだろう。ネイティブアプリは、多くの場合高コストで、成功する確率も低くなっている。PWAで成果が出ればネイティブアプリを作るのが良いだろう。

変化が激しいモバイルの世界では、技術革新により常に最善手が変わっていく。状況の変化を見ながら、戦略のアップデートをしていくことが重要である。PWAの利用においても、この点を忘れずに取り組んでいくことが大切である。

佐々木 拓郎

執筆者 佐々木 拓郎

クラウド・モバイルを生かしたビジネスの推進を専門にしています。
(クラウド事業推進部長)

本稿は、野村総合研究所発行の「ITソリューションフロンティア」2019年4月号に掲載されました。

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