─ デジタルマーケティングプラットフォーム構築のために─ 進化したWeb 解析ツールを活用する

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デジタルマーケティングには、Web サイトを訪問した人の振る舞いを解析することが効果的で有効であることは論をまたない。そのためのツールも、顧客チャネルのデジタル化の進展に合わせて進化してきた。本稿では、Web 解析ツールを活用したデジタルマーケティングプラットフォームの在り方について考察する。


デジタルマーケティング事業部 デジタルマーケティング事業推進課
上級 坂本 祐・主任 山川 俊哉

Web 解析ツールの進化

Web 解析ツールの始まりは、Web サーバー上のアクセスログを基に集計する、サーバーログ型のログ解析ツールである。しかし、アクセスログだけでは閲覧者を識別できないため、Web サイトを訪れてから去っていくまでに何をしたかという一連の行動を把握することができず、ログ解析ツールで分かることは限られていた。

そこで誕生したのが、サーバーログではなく、Web サイトの閲覧時に端末側に生成されるCookie(クッキー)を利用するアクセス解析ツールである。Cookie にはアクセス者の識別情報や、閲覧したページ、閲覧日時などを保存できるので、これを読み込めば誰がどんな振る舞いをしたのかをアクセス者ごとに把握できる。Cookie を読み込むためには、Web サイト上に置かれたJavaScript(簡易プログラミング言語の1 つ)のコードが使われる。これをWeb ビーコンと呼ぶ。アクセス解析ツールは、Cookie とWeb ビーコンの仕組みを活用して、Web サイト上における閲覧者の行動を、一連の流れとして把握できるようしたものである。

さらに最近のWeb 解析ツールは、ログ解析にとどまらず、メールの開封、スマートフォンアプリの利用状況、IoT(さまざまなセンサーや機器がインターネットでつながった状態またはその仕組み)デバイスの動作状況、オフラインチャネル(店頭での購買・契約・問い合わせ、電話や紙媒体での購入申し込みなど)での行動まで、さまざまなデータを収集し分析することが可能になっている。

デジタルマーケティングがこれまでのマーケティングと大きく異なるのは、施策の結果をデータとして即座に入手し、可視化できる点である。この利点を生かして効果的な施策をスピーディーに実施するためには、データの収集から分析、施策の検証までを統合的に行えることが有効である。このような仕組みは、デジタルマーケティングプラットフォーム(DMP)と呼ばれている。最近のWeb 解析ツールは、デジタルマーケティングプラットフォームのさまざまな機能をカバーしており、デジタルマーケティングの中心的な役割を担うものとなっている(図1 参照)。

デジタルマーケティングプラットフォームの機能

図1 で示す通り、デジタルマーケティングプラットフォームは以下のような機能で構成されることが多い。

①データの収集・蓄積

デジタルマーケティングで必要となるデータには以下のものがあり、多岐にわたる大量のデータを効率よく収集・蓄積することが必要である。
・Webサイト、スマートフォンアプリ、メールなどオンラインチャネルの行動データ
・広告などの施策データ
・店舗やコンタクトセンターなどオフラインチャネルの行動データ
・顧客データ
・提携サービス、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)、パブリックDMP など、自社以外で保有されている外部データ

②データの可視化・分析

BI(ビジネスインテリジェンス)ツールやクラウドサービスの分析機能を用いて、収集したデータを可視化・分析することにより、マーケティング担当者は消費者のニーズや施策の効果を把握し、商品開発や次の施策の検討に生かすことが可能となる。また、データをグラフなどで分かりやすく表示するダッシュボードは、経営層がデータに基づいた経営戦略を立案する際の大きな助けとなる。

③他のツール・サービスとの連携

広告配信サービス、MA(マーケティングオートメーション)ツール、パーソナライズツール(提供する情報を顧客ごとに最適化するためのツール)などと連携し、分析により得られた示唆に基づいて施策を実施する機能である。

以上の3つの機能を持つプラットフォームを構築するためには、収集するデータや分析手法の選定、データインターフェースの設計、端末機器への実装など多岐にわたる対応が必要で、敷居が高い場合が多い。このような場合に効果的なのがWeb 解析ツールの活用である。米国Google 社の「Google Analytics360」のような最近のWeb解析ツールには、上に挙げたデータの収集や可視化・分析の機能が実装されており、これらのツールを使ってWeb サイトやスマートフォンのデータを計測している場合は、計測したデータをそのままデジタルマーケティングプラットフォームで活用することが可能である。

デジタルマーケティングプラットフォーム構築のポイント

Web 解析ツールの活用を含めて、デジタルマーケティングプラットフォーム構築の際には以下の点に留意する必要がある。

(1)目的・ステップの明確化

デジタルマーケティングの方法は多岐にわたるため、必要となりそうなデータを取りあえず集めておこうとすることが多いが、それでは開発ボリュームが肥大化するだけでなく、データが使えなかったり使いにくかったりして運用ができず、成果が上がらないといった失敗にも陥りやすい。そのため、あらかじめ短期的・中長期的なゴールとロードマップを具体的に策定し、運用も含めたデジタルマーケティングプラットフォームの設計を行うことが重要となる。

また、成果が得られなかった場合を考慮して、早い段階で軌道修正ができるように、導入ステップを分割することが望ましい。例えば、まずはデータ収集が容易な自社Web サイトのデータのみを対象に、広告の効果を定量的に測定できるROAS(費用売上率)やROI(投資利益率)の向上を目標としてスタートすることである。その後で、最終的なゴールを見据えた上で、段階を踏んで成果を上げていけばよい。

(2)データの関連付け

複数のチャネル(Web サイト、スマートフォンアプリ、実店舗など)にまたがる行動分析を行うためには、収集したそれぞれのデータをユーザー個人と関連付ける必要がある。関連付けには、ログイン機能があるサービスではログイン時のID を使い、ログイン機能がないサービスではCookie を使うのが一般的である。Cookie を使う場合、ドメインが異なるWeb サイトでは、Web 解析ツールでは同じユーザーでも別々に認識されてしまう。そのため、1 つの企業の中ではWebサイトのドメインを統一することが望ましい。また、各データをどのように関連付けるかについては、データ収集時だけでなく、新しいサービスやキャンペーンなどを立ち上げる段階で考慮しておく必要がある。

各チャネルで収集したデータを関連付けてマーケティングに活用する際は、自社のプライバシーポリシーが守られているかどうかを確認し、場合によりプライバシーポリシーの改訂やユーザーの同意が必要があることも忘れてはならない。

(3)柔軟性の確保

デジタルマーケティングプラットフォームは、前述したように段階的に導入を進め、徐々に範囲を拡大していくことになるため、機能の追加や変更に柔軟に対応できなくてはならない。また、データの可視化・分析で使用するBI ツールやクラウドサービス、施策実施のためのMA ツールやパーソナライズツールは常に改良されている。従って、変更の影響を最小限にできるように、データの収集・蓄積機能と可視化・分析機能は相互依存の少ない疎結合としておくべきである。

Web サイトについては、タグ管理ツールを導入しておくことをお勧めする。計測範囲を変更したり、外部のデータやパーソナライズツールなどと連係させたりする際にはWeb サイトの改修が必要になる。この場合、タグ管理ツールを導入しておくことで、改修の範囲を最小限にすることが可能である。

デジタルマーケティングプラットフォームの効果

ここまで、デジタルマーケティングプラットフォームの機能や構築のポイントについて述べてきたが、ここではその効果について簡単に触れておく。

(1)1to1マーケティングの高精度化

デジタルマーケティングプラットフォームと広告配信サービス、MA ツール、パーソナライズツールなどとの連係については、すでに機能の面から述べた。Web ページに表示する情報や広告、メールマガジンの内容などを、相手の属性や趣味、嗜好に応じて異なるものにする1to1 マーケティングは、デジタルマーケティングプラットフォームと他のサービスやツールとの連係によって容易かつ高精度になる。

(2)広告予算の最適化

マーケティング担当者の間では、新聞・雑誌・ラジオ・テレビのいわゆるマス4 媒体にデジタル広告を加えた5 つの媒体への予算配分について、関心が高まっている。

テレビコマーシャルや交通広告、屋外広告といった非デジタル広告は、消費者との接触状況をデータとして自動的に収集することが難しいため、どの程度、消費行動に寄与したかを短時間で評価することができない。一方、デジタル広告は、Web 解析ツールで消費者とデジタル広告との接触や反応を把握することが容易であるため、どの媒体が効果的かを評価することが可能である。さらに、広告入札ツールや広告配信ツールなどのアドテクノロジーと呼ばれる技術を活用することで、広告費用を投下すべき媒体の適切な選択や広告予算の最適化も可能になる。

デジタルマーケティングプラットフォームの課題と将来

デジタルマーケティングプラットフォームには課題もある。例えば米国Apple 社のiOS11 からは、Cookie の利用を24 時間以内に制限する機能が実装されており、2018 年5 月に適用が開始されたEU(欧州連合)の一般データ保護規則(GDPR)では、Cookie などの個人データの取り扱いを厳格化することを求めている。一方で、スマートフォンなどの急速な普及やさまざまな技術革新、コミュニケーション手段の多様化を背景に、デジタルビジネスには個人データの活用が不可欠ともいえる。

従って、技術的な対応と併せて、取得する個人データの内容や目的をプライバシーポリシーで明示し、オンラインとオフラインを問わず、ユーザーから許諾を得たり、データ保持期間を定めて管理したりするなどの仕組みが、今後はデジタルマーケティングプラットフォームにも求められていくであろう。

坂本祐

執筆者 坂本祐

デジタルマーケティング関連システムの導入・コンサルティングを専門に行っています。

山川俊哉

執筆者 山川俊哉

デジタルマーケティング関連の戦略立案・アナリティクス、アドテクノロジーを専門に行っています。

本稿は、野村総合研究所発行の「ITソリューションフロンティア」2018年8月号に掲載されました。

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