─ クラウド型データ分析基盤のすすめ─ データ分析の精度と柔軟性を確保する 2/2

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分析基盤構築の重要ポイント

分析基盤を構築する際には、以下の3 点が重要なポイントになる。

①データの活用方法を具体化・明確化する

前述の、分析基盤のアウトプット層に当たる部分の話になるが、「誰が」「どのような目的で」「何を求めるか」によって、分析基盤に必要なものが変わる。例えば、「発注経験の浅い店員が」「店舗での精度の高い発注作業のために」「機械学習を使った発注量の提案をしてほしい」というような具合だ。このような明確化によって、利用すべきデータを具体的に検討することができるようになり、そのデータの量や種別に応じて最適なシステム構成が決まる。このように、業務にどう生かしたいかを踏まえながら、これらの項目を明確化することが大切である。

②データの選定を慎重に行う

分析基盤では、個人情報のように取り扱いに注意を要するデータを対象とすることもある。この場合、各事業者で定めたセキュリティポリシーに応じた検討が必要になるが、基本的にはデータをそのまま分析基盤に投入することは避け、何らかの加工を行うことが望ましい。例えば、生の個人情報の代わりに、個人を特定するID を使う。もし個人情報の復元が必要であれば、取り込んだID をキーとして、データ元へ問い合わせて個人情報を取得するというのも1 つの方法である。この問題はアウトプット層の構成にも大きく影響するので、設計段階で慎重に方針を検討する必要がある。

③データの利用環境を限定する

これは、主にBI(ビジネスインテリジェンス)ツールや自前の分析プログラムを使う場合に留意する点だ。これらのツールやプログラムは、各個人のPC 上で操作することが可能である。すなわち、データを各個人のPC に持ち出して作業できるということである。個人の端末上に保存されたデータは、一般にセキュリティの統制が及ばない。そのため、セキュリティが確保されたサーバー上にBI ツールや分析プログラムを実行できる環境を用意し、各個人のPC からそのサーバーに接続して使用するようにすることが望ましい。この場合、分析環境には、ユーザーが十分に快適と感じられるくらいの性能が必要である。自分のPC の方が高性能だと、ルール違反と知りながらもそちらへデータを保存して分析してしまう可能性があるからだ。

以上の3 点を検討する際には、将来起こり得ることを想定したり、分析手法の専門知識が必要となったりするため、多くのプロジェクトを経験しているベンダーに相談しながら進めるのがよいだろう。

分析基盤がもたらす効果

分析基盤は、全社横断的なデータのハブでもある。各組織が持つデータを分析して結果を共有することで、以下のような効果が生まれるだろう。

(1)既存業務の効率化

分析基盤の上に保持された大量のデータを利用することで、経験を積んだベテランのナレッジを全社の資産とすることができるようになる。

例えば、NTT ドコモが2017 年2 月に発表した「AI タクシー」がある。これは、携帯電話の位置情報から割り出したエリアごとの人の数や、気象情報、地理情報などを基に、乗車を希望している人が何人いるかを区域ごとに予測して、ドライバーに配信するシステムである。予測には、過去の乗車実績を学習させた人工知能(AI)が用いられる。空車走行を減らせる効果はもちろん、経験の浅いドライバーが乗客を効率よく獲得できるようになるといった効果もある。

このように、大量のデータを分析する仕組みは、人の仕事を助け、一部の仕事を代替する。その結果、1 人が生み出す価値を増大させたり、人にしかできない仕事にリソースを重点的に投入したりすることが容易になる。

(2)新しいビジネスチャンスの発見

複数のブランドを持つ企業が、従来はブランドごとにユーザーの行動分析を行っていたとする。これらの情報を1 カ所に集積し分析することで、思いもよらない発見があるかもしれない。分析基盤に保存すべきデータは、システム上のデータに限らない。例えば、対面販売のようなオフライン環境での売上高と、Web ページ上のユーザーの行動履歴を結び付けることも可能である。これにより、ユーザーがどういう経路で商品を認知し、どんな関心を持ち、購入に至ったのかということを、オフラインとオンラインをまたいで追跡できるようになる。それは、新しいビジネスチャンスの発見につながるはずだ。

データを基に別の業態へ進出した企業もある。眼鏡の製造販売で知られるジンズが開発・販売している製品に、眼鏡型ウェアラブルデバイス「JINS MEME」がある。これは、眼球の動きから使用者の集中の度合いを計測するものである。同社は、この製品で取得したデータを基に、「世界一集中できる環境」をうたった会員制のワークスペース「ThinkLab」を2017 年12 月にオープンさせた。データ分析を新しいビジネスにつなげた例といえる。

デジタルトランスフォーメーションという大きな変革の時代、さまざまな活動を記録したデジタルデータを分析し、そこから有用な知見を導き出す分析基盤は、企業にとって変革の時代を生き抜くための必須の備えとなるだろう。

喜早彬

執筆者 喜早彬

クラウドサービスを生かしたシステムの設計・開発を専門に行っています。

本稿は、野村総合研究所発行の「ITソリューションフロンティア」2018年8月号に掲載されました。

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