─ デジタルマーケティングツール導入のポイント─ 高価値な顧客体験を創り出すために

20180814ec

顧客接点のデジタル化が進み、さまざまなデータを取得することが可能になったことにより、デジタルマーケティングと呼ばれる技術が著しく進化している。本稿では、デジタルマーケティングの効果や、目的に応じて異なる活用の方法などについて、NRIネットコムの支援事例を交えて紹介する。


Web デザイン事業部 フロンティアデザイン課長代理 柿崎 千絵

デジタルマーケティングとその目的

この十数年ほど、企業のマーケティングや販売促進を担う部門は、Web サイトの拡充やSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)への対応、モバイルアプリの活用、無料通信アプリ「LINE」のような新しいコミュニケーションツールの導入など、さまざまな顧客接点のデジタル化に追われてきた。一方で消費者の側でも、商品・サービスに対する価値の考え方も多様化し、また変化もしている。デジタル化された顧客接点は、そのような消費者の動向をデータとして収集することを容易にした。今では、データ活用のためのさまざまなツールやサービスも提供されている。これらが、デジタルマーケティングを加速させる要因となっている。

デジタルマーケティングが、多様化された顧客接点の輪の中で「価値ある接点」を増やし、「価値の集合体」を創り出すことだとすれば、デジタルマーケティングの高度化とは、「価値の集合体」から「一連の高価値な顧客体験」を創り出すことであるといえるだろう。

デジタルマーケティングの導入に当たって

デジタル化された顧客接点から「価値の集合体」を創り出すためには、デジタルマーケティングツールの導入が最も効果的である(図1 参照)。デジタルマーケティングツールには多種多様なものがあり、図1 に示すように、CRM(顧客関係管理)ツールやBI(ビジネスインテリジェンス)ツールなども広い意味ではデジタルマーケティングツールに含めることができる。

ここで取り上げるのは、よりマーケティングに特化したツールといえる、MA(マーケティングオートメーション)ツールとDMP(データマネジメントプラットフォーム)の2 つである。

MA ツールとDMP は、集客、潜在層の掘り起こし、顕在層へのアプローチ、関係強化といった一連のマーケティング活動を支えるツールである。企業の導入意向が強く、NRIネットコムが受ける相談の件数も多い。

MA ツールとDMP では、導入の目的が大きく異なる。

MA ツールは、企業が保有する顧客リストに対して、顧客単位で行動を細かく観察し、個別に最適な施策を打ち、購買や成約につなげていくツールである。Web サイトの閲覧、メールの開封、展示会やセミナーへの来場、営業担当との接触など、オンラインとオフラインの双方で計測範囲を広げるほど個々の動きを細かく追うことができる。メールマガジンの作成・配信、入力フォームやランディングページ(広告のリンク先となるWeb ページ)の作成が1 つのツールでできる点も支持される理由である。

DMP は、パブリックDMP とプライベートDMP の2 種に大別される。

パブリックDMP は、主に広告配信に利用されるデータセラー型のDMP である。いわゆるサードパーティーデータ(行政や外部企業から入手する気象データや位置データ、提携企業から購入するデータなど、膨大な量の属性情報や行動データ)を持ち、広告配信セグメント(属性が似通っている集団)を抽出するのに適している。例えば、同じ「主婦」でも、「幼児の子育てをしている主婦」や「仕事を持ち夫と2 人暮らしの主婦」など、細かい属性に基づいて広告対象を抽出することが可能である。パブリックDMP のデータは、広告配信に利用されるだけでなく、MAツールやプライベートDMP と連係させて活用されることが多い。

プライベートDMP は、自社保有の顧客データや取引データの他、パブリックDMPのデータ、サードパーティーのデータなど、企業が必要とする内外のあらゆるデータを入れる「箱」のようなものである。集めたデータを目的に応じて「箱」の中で処理し、広告やWeb サイトの表示コンテンツの出し分けなどに活用する。

例えば、「幼児の子育てをしている主婦」というセグメントを抽出して、興味を引きそうな広告を表示したり、Web サイト訪問時に育児関係のコンテンツを表示したりするなどの施策が可能になる。また、企業が保有する会員情報と組み合わせると、そのセグメントの中でも会員でない人に向けた入会促進の施策を打つことも可能になる。

このように、複数種のデータを組み合わせて対象のセグメントを抽出し、集客やリテンション(既存顧客の維持)の施策に生かすなど、プライベートDMP の活用方法はさまざまである。

デジタルマーケティングツールの効果

ここでは、NRI ネットコムが支援したMAツールとDMP の導入事例を、導入効果を交えて紹介する。

(1)MAツールの導入事例

機械メーカーのA 社では、自社機器の導入から10 年が経過した既存顧客に対して、営業担当が訪問することで機器を更新してもらう活動を行っていた。しかし10 年が経過していると、相手の担当者が代わっていて、名刺と資料を渡すだけで時間を費やしてしまうことが多かった。これでは機器の更新につなげるためのフォローができず、顧客から連絡が来ない限り機器更新の検討状況が見えない。そのため、訪問後の営業アプローチが取りにくいことが課題となっていた。

そこでA 社は、オンラインとオフラインの双方から顧客行動を観察し、それぞれの顧客に適した働き掛けができるようにすることを目的にMA ツールの導入を決めた。まず、収集した名刺をリスト化し、Web サイトに誘導するためのお礼メールを送った。同時に、事例やソリューションに関する4 種のダウンロード資料をWeb サイトに掲載した。

活用したデータは、名刺リスト、メール開封状況、Web サイトの閲覧履歴、資料のダウンロード履歴である。MA ツールを利用すると、名刺リストに送った「お礼メール」が開封された時点で、その個人を特定できる。個人が特定されれば、メールに記載されたリンクURL から自社のWeb サイトを訪問したか、資料をダウンロードしたかなどの細かい行動が可視化される。さらに、どの資料をダウンロードしたかが分かるので、顧客の興味や関心を推測することも可能だ。メール開封や資料ダウンロードまでのスピードも、顧客の興味の度合いを測る指標になる。

これら一連の施策によって、営業担当は有望な顧客を知ることができるため、効率的なアプローチが可能となる。商談意欲の高い顧客にとっては、自社の状況に合った商品やサービスについて、自分から働き掛けなくとも適宜フォローしてもらえることは、高価値な顧客体験につながる。なお、メール開封後に複数のWeb ページを閲覧したり、複数の資料をダウンロードしたりする積極的な顧客ほど、成約までのスピードも速かった。

こうして、営業のリソースを主に訪問と名刺収集に充て、その後のフォローをMA 側にシフトさせことにより、全体の効率を上げることもできた。

(2)プライベートDMPの導入事例

一般向けの会員制Web サービスを提供しているB 社では、新規入会件数や、既存会員のリピート訪問回数の伸びが鈍化する状態にあった。そこで、会員ページのアクセス分析だけでは検討材料に乏しいため、パブリックDMP の外部データを活用して、新規入会とリピートが期待できるセグメントの属性(性別・趣味・嗜好など)を探ることにした。

新規会員獲得のためのWeb 広告は、いたずらに多くの人に送るのではなく、入会傾向の強い属性を持つ人に送ることが効果的であることは言うまでもない。そこで、すでに入会している人の登録情報、自社サイトの訪問履歴に加えて、パブリックDMP のデータも活用して適合するセグメントを抽出した。同時に、効果の高い広告を絞り込むこともできるようになり、広告のROI(投資利益率)も向上した。また、広告効果の見込めないセグメントを抽出したことで、運用負荷の軽減にもつながった。

リピート訪問回数を増やす施策としては、自社データの会員ID を使って、会員のWebサイト上の行動を分析することにした。その結果、リピート訪問者は男性に多く女性に少ないことや、数ページだけの消極的な閲覧であっても定期的にWeb サイトを訪問している層があることなどが明らかになった。そこで、リピート訪問する層を広げるために、消極的ながらも定期的に訪問している層を最優先ターゲットとして、SNS やモバイルアプリを活用することで接点を増やすことにした。

B 社では、拡充された顧客接点から得られるデータもプライベートDMP に蓄積し、より大きな「接点価値の輪」の創出を目指している。

デジタルマーケティングの高度化に向けて

すでに述べたように、デジタルマーケティングの高度化とは、「価値の集合体」から「一連の高価値な顧客体験」を創り出すことである。

前述のMA ツールの導入事例では、営業担当が対面で得た顧客情報(名刺リスト)へお礼メールを送ることで、非対面のオンラインチャネルでも顧客個人を特定できるようになった。これによって、Web ページの閲覧や資料のダウンロードなど、オンライン接点上の特定の顧客の振る舞いを知ることが可能となり、営業担当が再び足を運ぶ商談へとつなげて成果を出せるようになった。顧客側でも、メーカーとの接触や商品情報の取得など、一連のコミュニケーションの円滑化という価値が生まれることはすでに述べた通りである。

DMP の導入事例でも同じことがいえる。新規入会の潜在層にとっては、興味を引かれるWeb 広告が目に入ればうれしいし、広告からたどった先にあるコンテンツが自分の興味や関心に合ったものであれば心地よいだろう。既存会員にとっても、普段利用しているSNS などの接点から、タイミングよく有益な情報が得られるサービスは利用価値が高い。

このように、1 つ1 つの価値の連続が、「一連の高価値な顧客体験」につながる。人の興味や関心は時間の経過やライフステージの変化に合わせて移り変わる。変化に対応した価値を提供し続けるためには、データの継続的な更新を含め、データ活用に繰り返し取り組むことが大切である。

マーケティングの本来の目的は、顧客の人生や生活を豊かにすることにあると考える。その本来の目的のために、デジタルマーケティングの高度化に取り組んでいきたい。

柿崎千絵

執筆者 柿崎千絵

デジタルマーケティングのコンサルティングを専門に行っています。
(Web デザイン事業部 フロンティアデザイン課長代理)

本稿は、野村総合研究所発行の「ITソリューションフロンティア」2018年8月号に掲載されました。

お問い合わせ

当社のサービス・製品に関するご相談やご質問、お見積りのご依頼など、こちらからお問い合わせください。