ユーザー行動の計測によるスマホアプリの本質的な改善(喜早彬) スマホアプリ計測の必要性とその手法

20170120-2

スマートフォンが広く普及している今、BtoC企業においてスマートフォンアプリ(以下、スマホアプリ)は顧客コミュニケーションの重要なチャネルとなった。しかしそのダウンロード数の把握やレビュー評価だけで満足している企業も多い。本稿では、スマホアプリの利用状況計測の重要性と、計測ツール選定や計測結果の分析に当たってのポイントを紹介する。


Webインテグレーション事業部 主任システムエンジニア 喜早彬

エンドユーザーに一番身近なチャネルとしてのスマホアプリ

2008年にiPhone3Gが、2009年にAndroidが日本で発売されて以来、周囲を見回してみると、多くの人がスマートフォンで何かを見ているのは今や当たり前の光景となっている。各大手通信事業者から発表される四半期ごとのラインアップもここ数年ほぼ全てスマートフォンとなった。また、近年は格安SIMが多くの企業から発売され、利用料金がネックで二の足を踏んでいた層にもスマートフォンは身近な存在となってきた。

スマートフォンの魅力の1つは、各サービス提供者が開発したスマホアプリをユーザーが選び、インストールすることで、自分の趣味やライフスタイルに合わせたスマートフォンにカスタマイズできる点である。このようなスマホアプリは、BtoC 企業にとってユーザーとコミュニケーションを取るための一番身近なチャネルとなる。企業も、その利点を生かすために、スマホアプリの提供を積極的に進めている。またユーザー側も、スマホ用Webサイトよりも快適に情報閲覧ができるスマホアプリを好む傾向にある。ニールセンが2014年に発表したスマホアプリ利用状況の調査結果によると、スマートフォンの利用時間の約7割はスマホアプリの利用と言われている。このような状況の中、スマホアプリのビジネス的な重要性は増してきていると言えるだろう。

スマホアプリの利用状況取得の重要性

スマホアプリもWeb サイトと同様、ユーザーの満足度を高めるためにファーストリリース後の改善・運用が重要となる。そのため、改善点の特定や改善の優先順位を決める上で、アプリの利用状況は貴重な判断材料となる。

Webサイトの場合、計測ツール導入が一般的になっているため、目標の達成度合いを測るKPI(重要業績評価指標)などの指標の達成率とともに、計測ツールで取得した統計結果に基づいた定量的な結果を参考に機能を検討することが多い。一方、スマホアプリへの計測ツールの導入は、通販サイトなどを運営しているEC 企業以外にはあまり普及していないように見受けられる。そもそもスマホアプリに計測ツールを導入できることを知らないという場合もあるが、それ以外の理由としては、主に次のような点が考えられる。

・ スマホアプリのダウンロード数でその価値を計れると考えている

・ アプリストアに書かれるレビュー内容でユーザーの不満が分かると考えている

これらは、スマホアプリ運用にとって確かに重要な情報であるが、これだけでは本質的に必要な改善箇所の把握は難しい。これらの情報と、計測ツールより取得できる情報を合わせて見ることで、より効果的な改善点をあぶり出すことができる。

取得すべきスマホアプリ利用状況4つの観点

スマホアプリの計測ツールの説明は後述するとして、では、どのような観点で計測を行えばよいだろうか。ここでは、スマホアプリの計測の中でも代表的な4つの観点を紹介する。

(1)どの広告がダウンロードに貢献したか

Webサイトとスマホアプリでの大きな違いの1 つは、ダウンロードという行為の有無である。アプリのダウンロードページにユーザーがたどり着く方法は2 つある。アプリストア内のフリーワード検索やカテゴリ検索でダウンロードページへ遷移する方法と、外部サイトに設置されたリンクやバナー広告などから直接アプリストアのダウンロードページへ遷移する方法である。

後者については、計測ツールを用いることでユーザーがどの広告からダウンロードページヘ遷移し、ダウンロードを行ったかを測定することが可能となる。この計測を行うことで、どのページのリンクや広告がスマホアプリのダウンロードへの貢献度が高いか、もしくは低いかが特定できる。結果、広告費用の選択と集中が可能となり、スマホアプリの効率良い広告戦略を取ることができる

(2)どこから何回起動されたか

スマホアプリの「起動」に関する計測を行うことで、アプリがどのようにユーザーに使われているかを把握することができる。この計測は、Web サイトで言うところの「訪問」に当たる。起動については、単に回数を測定するだけでなく、以下の3つの観点で分析することが効果的だ。

①ダウンロード後の起動確認

スマホアプリがダウンロードされた後や、バージョンアップの後にアプリが起動されたかどうかを確認することで、実際にスマホアプリが使用されていることを確認することができる。

②起動元の確認

現在ではスマホアプリの起動方法は多様化し、スマートフォンのホーム画面からアイコンをタップするだけではない。他のアプリやWebサイトからの起動や、Webブラウザの検索結果のリンクから直接スマホアプリを起動できるディープリンクという方法も出現している。このため、アプリがどこから起動されたかを把握することは、自社アプリの起動回数を向上させるための施策を検討する上で大事な観点となる。

③起動頻度の調査

スマホアプリの起動頻度は注視すべき値だ。代表的な指標は次の3点である。

・月間のアクティブユーザー数(MAU)

・1 週間のアクティブユーザー数(WAU)

・1日当たりのアクティブユーザー数(DAU)

起動頻度に関しては、提供しているアプリの性質や目的を検討した上でどの指標を重視するかを検討し、その狙い通りの頻度でアプリが利用されているかを検証する。もし、想定以下であれば、プッシュ通知(ユーザーがアプリを起動していなくても、アプリがメッセージを送る機能)を行うなど、利用を喚起するための施策を検討し、ユーザーへアプリの利用を促すことが必要となる。

(3)どのように使われているか

ユーザーがスマホアプリ内で操作した内容を計測し、どのようにアプリが使われているかを調査する必要がある。代表的な項目は次の4 点である。

・どのページがどれだけ閲覧されたか

・どのボタンがどれだけタップされたか

・どのコンテンツが、どのSNS で、どのような操作をされたか(例:「シェア」「いいね!」「リツイート」など)

・プッシュ通知がどれだけ開封されたか

(4)クラッシュ検知

スマホアプリは使用中、突然動作が強制終了してしまうことがまれにあり、これをクラッシュと呼んでいる。計測ツールを入れていない状態では、クラッシュの発生原因はおろか、ユーザーの端末内でクラッシュが発生していることすら検知できない。計測ツールのクラッシュ検知機能を導入していれば、原因特定と対策までの期間をはるかに短縮することができる。いわばスマホアプリの品質を保つための「守りの計測」だ。スマホアプリの致命的クラッシュの放置や対応遅れは、提供している企業イメージを悪化させる一因となる。それを防ぐためにも、クラッシュ発生時に素早い対応を行うことは、スマホアプリ運用上重要なポイントだ。

計測ツールの仕組みと導入時のポイント

ここまで紹介してきたようなスマホアプリの計測を実際に行うためには、まずSDK(Software Development Kit:ソフトウェア開発キット)にある計測用の機能を呼び出す処理を、スマホアプリに組み込む。アプリが起動し、その処理が呼び出されると、計測情報が集計サーバーへ送信される。計測の結果は、各計測ツール開発企業が提供している管理画面で図表やグラフとしてグラフィカルに表現される。(図1 参照)

計測ツールの導入、組み込み自体は基本的にはそれほど難しいものではない。その上で、導入に際して留意した方がよいと思われる点を2 点紹介する。

(1)計測ツールの選定

計測ツールは複数の企業が開発、提供している。有名なところで言えば、米国 Google 社の提供している Google Analytics や米国Adobe社の提供するAdobe Analyticsがある。

また、クラッシュ計測に特化したものでは、米国Twitter社の提供しているFabricというツールがある。計測ツールにはそれぞれ機能の違いや、導入コストが無償か有償かなど特徴がある。選定の際には、費用の他、既に自社のWebサイトに導入済みの計測ツールと同じものにするかや、計測以外にどのようなことができるのかなど、総合的に考慮して判断するのがよいだろう。

(2)計測の設計

計測を効果的に行うために、まずどのような分析がしたいのか、そのためにどのような情報を集めるのか、を明確にする必要がある。その上で、計測処理の方法や、目的に合った管理画面での集計結果の見せ方などを設計する。これには、導入する計測ツールの深い知識が必要なため、計測ツールの専門ベンダーとよく相談しながら進めていくのが良いだろう。

これからのスマホアプリの役割

スマホアプリは企業にとって、エンドユーザーに一番近いチャネルだ。その特性を生かし、ユーザーがより良い体験や生活をするための良き相談相手やサポーターといった使われ方も次々と生まれてきている。ある企業では、店舗にスマホアプリに対応した電波を発信するビーコン端末を配置し、自社のスマホアプリを入れているユーザーが近づくと、プッシュ通知を配信し来店や購買行動を促す、というプロモーションの実証実験が行われている。また、ある企業では、店頭商品のバーコード・QRコードを、自社のスマホアプリで読み取ることで、商品の詳細な機能説明や、ユーザー評価などが表示されるといったサービスを提供している。

このような潮流の中で企業は、「まず、スマホアプリを作ることありき」という考え方ではなく、事業としてゴールを定め、そこへ向かってユーザーにたどってほしいストーリーを考える必要がある。これはデジタルマーケティングの世界では「カスタマージャーニー」と呼ばれ、顧客が購入に至るストーリー(プロセス)を整理、可視化したものである。

スマホアプリを作った上でどうするか、ではなく、最初からスマホアプリを事業の目的を達成するための強力な手段の一要素と考えることが、スマホアプリを一層、企業の利益に貢献する存在へと進化させるだろう。ユーザー行動を定量的に測定することは、スマホアプリの進化の方向性を考える上での重要な指針となるだろう。

喜早彬

執筆者 喜早彬

企業内業務用アプリ、コンシューマー向けアプリの担当経験をもとに、モバイルアプリケーションの提案、設計、運用を行っています。

本稿は、野村総合研究所発行の「ITソリューションフロンティア」2016年12月号に掲載されました。

お問い合わせ

当社のサービス・製品に関するご相談やご質問、お見積りのご依頼など、こちらからお問い合わせください。